「コメントは不要」は本当か?バージョン管理ソフトとコードコメントの違いと役割

前回のおさらい:コメントの重要性

前回の記事では、ソースコードにおけるコメントの本来の目的と、その重要な役割について整理しました。特に以下の3点がポイントです:
・コメントはコードを読む人のために書くものであり、「なぜこの実装なのか」という意図を伝える手段であること
・保守や改修の際に本当に必要とされる情報(設計上の背景、前提条件、特殊な処理の理由など)を的確に補足することが重要であること
・その一方で、処理内容の単なる繰り返しや古くなった情報など、ノイズになりうる不要なコメントは避けるべきであること

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「バージョン管理ソフトがあれば、コメントは不要」という誤解

近年、「バージョン管理ソフトがあれば、ソースコードにコメントは不要」といった主張を耳にすることが増えてきました。実際に、ある開発現場ではこの考え方がルールとして採用され、コメントの記述を原則禁止とする方針が打ち出されていました。

コメントを不要とする根拠としては、「すべての変更はGitなどのバージョン管理で追跡できるため、コメントを書く必要はない」というものでした。さらに、「コメントがなければコードがすっきりして見やすくなる」といった理由も挙げられていました。

一見すると、これらの主張には一定の合理性があるように思えるかもしれません。実際、AIに同様の質問を投げかけた場合でも、似たような回答が返ってくることがあります。

バージョン管理とコードコメントは役割が異なる

しかし、こうした考え方には大きな誤解があります。バージョン管理とコードコメントは、それぞれ異なる目的と役割を持っており、一方がもう一方の代替となるものではありません。

ここでは、「コメント不要論」がなぜ誤解に基づいているのかを具体的に掘り下げ、実践的な観点から、コードコメントの本来あるべき役割と意義について考察していきます。

ここでいう「コメント」には2つの意味合いがあります。1つは、コード中に意図や仕様を記述する通常のコメント、もう1つは、元のコードをコメントアウトして無効化しつつ一時的に残す「コメントアウトによる履歴保存」の使い方です。

「コメントは不要」とする意見の中にも幅があり、「すべてのコメントは不要」とする極端な立場から、「コードを一時的に無効化する目的のコメントアウトは不要だが、コードの意図を説明するコメントは必要」とする意見まで、さまざまな立場が存在します。

本記事では、このうち「通常のコメント」、すなわちコードに意図や背景を記述する説明的なコメントに焦点を当てます。一方で、「履歴を残すためのコメントアウト」については、別の記事で詳しく取り上げます。

なぜ「コメント不要論」が広まってしまうのか?

「バージョン管理ソフトがあれば、ソースコードにコメントは不要」という、一見もっともらしく聞こえるが誤った主張が、現場で定着してしまうのはなぜでしょうか。

初めてそのような現場に接したとき、正直なところ驚きを隠せませんでした。しかし話を聞いてみると、そのルールを定めたのは、実際の開発経験がほとんどない人たちであることがわかりました。現場の技術的判断を下す人材が不足しており、そうした背景がルールの形に表れていたのです。

さらに、そのようなルールに対して疑問を持たず、受け入れてしまう若手エンジニアが多いことも、広がりの一因といえるでしょう。私自身、新人時代は「コメントは読みにくくなるから邪魔」と思っていたこともありました。

しかし、経験を重ねるにつれて、コメントの本質は「読み手のためにある」こと、そしてその読み手のスキルや視点によって必要とされる情報が大きく変わることがわかってきました。

たとえば、新人エンジニアはその時点の最新のコードだけを“点”として見ることが多いのに対し、ベテランエンジニアはシステム全体を“線”や“面”として捉え、時系列的な変遷や過去の設計意図まで考慮に入れます。そのとき、過去や未来の文脈を知る手がかりとして、コメントは極めて重要な役割を果たすのです。

結局のところ、こうした「コメント不要論」が広まってしまう背景には、ルールを定める側と、それを受け入れる側の双方に、スキルや経験の不足が共通して存在していると考えられます。一度現場に浸透してしまったルールを覆すのは簡単ではありませんが、その根拠を一つひとつ見直し、正しい知識を共有していくことが、改善への第一歩になるはずです。

コメントが果たす役割とは何か?

前回の記事でも触れたように、ソースコードにおけるコメントの主な役割は、コードの読み手に対して「実装の意図」や「設計上の背景」、「特別な制約」など、コード本体だけでは読み取れない情報を補足することにあります。

また、将来的な改修時の注意点や、検討の末に採用しなかった実装方針などをコメントとして残すこともあります。これにより、不要な改修や過去の検討と同じ過ちの繰り返し、重複作業を防ぐことができます。

コメントが伝えるべきなのは、単なる処理内容ではなく、「なぜこの処理が必要なのか」「なぜこの実装が選ばれたのか」といった、背景にある判断や文脈です。こうした情報は、いくらGitのようなバージョン管理ソフトの履歴を遡っても明確にはわかりません。また、コードを読む際に誤解されやすいポイントをあらかじめ補足できるのは、コメントならではです。設計意図の共有や、長期的な保守性の確保という観点からも、コメントは極めて重要な要素なのです。

バージョン管理ソフトの役割と限界

Gitをはじめとするバージョン管理ソフト(VCS:Version Control System)は、ソースコードの変更履歴を記録し、過去の状態へ自由に戻したり、誰がどのような変更を行ったかを追跡したりできる非常に強力なツールです。チーム開発においては、作業の分担やマージ、レビューなどの効率化にも欠かせない存在となっています。

しかし、こうしたバージョン管理ソフトには、明確な「限界」もあります。たとえば、コミットログには「何を変更したか」は記録できますが、「なぜその変更が必要だったのか」「どのような選択肢の中からその実装を選んだのか」といった背景情報までは、通常十分に表現されません。

たとえば、バージョン管理ソフトのコミットメッセージに意図が記されていることもありますが、それはあくまで「変更に関する意図」であり、「コード自体の意図や設計上の背景」までは説明してくれません。
また、開発作業の中で特定の関数やコード片を見ている際に、毎回コミット履歴を遡って確認するのは、効率面でも現実的とは言えません。

だからこそ、コードのすぐそばにある適切なコメントが、読み手の理解を助け、作業の効率を高める重要な手段となるのです。

このように、バージョン管理ソフトは「過去の履歴を正確に残す」ことには優れていますが、「実装の意図や判断理由を伝える」といった補足的な情報共有には向いていません。

バージョン管理ソフトとコメントの役割が異なるのに、コメントは不要か

これまで述べてきたように、バージョン管理ソフトとコードコメントは、それぞれ異なる役割を担っています。
バージョン管理ソフトは「過去の履歴」を記録・追跡するためのツールであり、一方、コメントは「将来の読み手」に向けてコードの意図や背景を伝える情報補完の手段です。

では、バージョン管理にすべてを委ね、コメントを一切書かないとどうなるでしょうか。
コードの背景や設計意図が読み取れず、保守性は著しく低下します。その結果、品質は下がり、改修にかかるコストは大幅に増加します。実際、こうしたポリシーを採用していた現場では、同様の問題が何度も繰り返されていました。

さらに、コメントのないコードは、その時点の状態=「点」としてしか理解できず、処理の流れや設計上の判断といった「文脈」を読み取るのが非常に困難になります。こういったケースでは、むしろAIツールにコードの解析や意図の推測、改修提案を任せたほうが、効率的かつ正確であるという、皮肉な状況すら生まれます。

本来、開発者が「なぜこの実装にしたのか」をコメントとして残すべきところを怠った結果、AIにその“なぜ”を推測させる構図になっているのです。開発者が関与している意味が失われており、これはまさに本末転倒と言わざるを得ません。

だからこそ、人が担うべき役割は、コードをその時点の「点」として扱うのではなく、「線」や「面」として、意図や背景、文脈を捉え、共有することです。そのために、コメントは欠かせません。
特に新人のうちは、コメントの重要性を実感しにくいかもしれませんが、経験を重ねるにつれて、「伝わるコメント」がいかに保守性を高め、品質を支えるかを痛感するようになるでしょう。
これは、AIツールを活用する場合でも変わりません。AIが補助的に解析や提案を行うとしても、その判断材料となる情報を人がコメントとして残しておくことが、精度や成果に大きく影響するのです。

結論として、バージョン管理ソフトの存在がコメントを不要にするわけではありません。
むしろ、バージョン管理とコードコメントは、それぞれ異なる役割を担いながら、互いに補完し合うべきものです。両者のバランスを適切に保つことが、健全な開発と保守のために不可欠です。

今回のまとめ

「いつ」「誰が」「どんな変更をしたか」が追跡できるバージョン管理ツールは、開発現場において非常に有用であり、今や欠かせない存在です。
かつて、バージョン管理ツールが存在しなかった時代や未導入のプロジェクトでは、これらの情報をコメントで補っており、コメントが履歴管理の代替手段として使われていました。

近年は、バージョン管理ツールの導入によって、変更履歴に関するコメントは不要になりました。
しかし、コメントがすべて不要になったわけではありません。

この点を誤解すると、「バージョン管理があればコメントはいらない」といった短絡的な結論に至ってしまいます。
これまで述べてきたとおり、バージョン管理は過去を記録するためのツールであり、コメントは将来の読み手に意図や背景を伝えるための手段です。
両者はまったく異なる役割を担っており、それを正しく理解することが大切です。

次回は、誤解されやすい「コメントアウトによる履歴の保持」について、その是非と適切な使い方について掘り下げていきます。

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