長くて複雑なSQLや関数はなぜ生まれるのか?読み手を意識したコード設計のすすめ
「この関数、なんでこんなに長いんだ…」そう思ったことはありませんか? 長大で複雑なSQLや関数は、可読性や保守性を著しく下げ、開発現場にさまざまな問題を引き起こします。 この記事では、なぜコードは長くなってしまうのかを掘り下げ、開発者が意識すべき設計思考と、読みやすく保守しやすいコードを書くためのヒントを紹介します。
長大なSQLや関数が抱える課題
画面いっぱいに広がり、スクロールしても終わりが見えない―― そんな長くて見通しの悪い関数やSQLを、コードレビューや保守の現場で目にしたことはないでしょうか。 改行やインデントがあっても、全体像がつかみにくく、何をしているのか一読では把握できないことが多くあります。
一見すると「すべてが1カ所にまとまっていて便利そう」に思えるかもしれません。 しかし、こうした巨大な関数や複雑なSQLは、理解しづらく、修正や拡張の際に思わぬバグを引き起こすリスクが高くなります。 とくに他の開発者が引き継ぐ場合、メンテナンス性の低さは大きな障害となります。
なぜ関数やSQLは長くなってしまうのか?
スクロールしても終わらないような長大なSQLや関数に直面すると、修正やテストへの意欲が削がれてしまうことがあります。複雑すぎて処理の全体像が把握できず、手を加えるのもためらわれる──この感覚は、多くの開発者が一度は経験したことがあるでしょう。
では、なぜこの「読みにくく、保守しにくい」長いコードが生まれてしまうのでしょうか。多くのコードレビューを通じて見えてきたのは、その原因の多くが意外にも「悪意や怠慢」ではないということです。実際、問題の背景には、開発者のスキルや思考のクセ、プロジェクトの制約、現場の開発文化など、複数の要因が絡み合っています。
この背景を分析すると、主に2つの典型的なパターンが見えてきました。
- 「そのコードが悪いとは思っていない」
- 「悪いとわかっていても、改善できない」
前者は、知識や経験が不足しているため、問題点に気づけないケースです。また、知識はあっても、自分のコードがその問題に該当していることを認識できていない場合もあります。
後者は、問題意識はあっても、時間的な制約やリソースの不足、あるいはプロジェクトの方針など、外的要因により改善が進まないケースです。
このように、長いコードの原因は、開発者自身が改善できる内的な問題と、チームや組織が取り組むべき外的要因の2つに大別できます。そのため、それぞれの要因に対して適切なアプローチを取ることが求められます。
つまり、「長いコード」という問題は単に「長いコードを書くな」といっておけば解決するような課題ではなく、知識や認識の不足、さらには組織やプロジェクト文化に起因する複雑な問題です。この点を理解し改善策を考えることが重要なのです。
複雑な問題であるがゆえに、周囲でも長いコードをよく見かけることがあるのではないでしょうか。今回は、内的な要因に焦点を当て、開発者自身が直面する課題を深掘りしていきます。
知識の不足が生む長いコード
システム開発の経験がない方や、手探りでコードを書いている方の中には、「コードが長くても構わない」と考える方が少なくないように感じます。これは決して長いコードを推奨しているわけではなく、「とにかく動かすこと」に集中しているため、コードの可読性や保守性といった次のステップに意識が向いていないことが原因です。
私自身も、コードを書き始めた頃、処理を追加していくうちに自然とコードが長くなっていきました。そのときは、むしろ、多くの機能を作れるようになった成果だと感じ、コードが長いことが悪いことだとは思いもしませんでした。
そのため、これらの問題を解決するためには、まず「なぜ長いコードが問題なのか」を理解しておくことが重要です。
コードは「読む人」のためにある
「なぜ長いコードが問題なのか」を理解する前に、まず押さえておくべき基本があります。それは、システム開発においてコードは「書く人の効率」よりも「読む人のわかりやすさ」を優先すべき、という原則です。なぜなら、ソフトウェア開発の現場では、コードを書く時間よりも、それを読む時間の方がはるかに長く、可読性や保守性が開発全体の効率や品質に直結するからです。
実際の開発では、レビュー、テスト、デバッグ、リファクタリングといったプロセスで、同じコードを何度も読み返すことになります。さらに、システムが稼働した後の保守フェーズでは、別の開発者や運用担当者がコードを読み解く機会が増えます。そうした状況を踏まえると、「読むこと」を意識せずに書かれたコードは、チーム全体の生産性を大きく損なう原因となり得るのです。
なぜ長いコードが問題なのか?
では、 なぜ長いコードは避けるべきなのでしょうか?
最大の理由は、意図やロジックの把握に時間がかかり、全体像が見えにくくなるためです。これは、開発効率や品質に直結する重要なポイントです。
「長いコードは、それだけで読みにくさと理解の障壁になる」──これはソフトウェア開発における基本原則のひとつです。
処理が詰め込まれた長大な関数や、複雑な条件分岐が並ぶSQL文は、読み手にとって大きな心理的負担となります。本来「読む人のため」に書かれるべきコードが、逆に意欲や集中力を奪ってしまうのです。
たとえば、テーブルを8つもJOINするようなSQL文に直面し、それだけで解析する気力を失った──そんな経験を持つ開発者も多いのではないでしょうか。こうした冗長で複雑なコードは、開発者の生産性やモチベーションを下げるだけでなく、バグの温床にもなります。
特に厄介なのは、修正箇所の特定が困難になり、誤って別の部分を壊してしまうリスクが高まることです。加えて、テストケースの設計が複雑化し、テスト工数も膨れあがります。その結果、開発効率とソフトウェア品質の大幅な低下を招いてしまいます。
こうした課題は、人間の読み手に限りません。AIにコードを解析させる場合でも同様です。長大な関数や複雑な処理は、AIにとっても理解しにくく、誤読や誤判断の原因となります。
「AIが読むから大丈夫」「とりあえず動けばいい」といった安易な発想で、構造を無視した冗長なコードを書き続けるのは危険です。AIに任せる場合であっても、コードは構造的に整理され、シンプルであることが、正確な解析と意図通りの動作につながります。
長いコードにしないためには
長いコードには多くのデメリットがあります。可読性や保守性の低下、バグの発生リスクの増加、さらにはチーム全体の開発効率の悪化など、問題は深刻です。 まずは、開発者自身が「コードを長くしないことの重要性」を正しく認識することが、改善への第一歩となります。
次に重要なのは、コードが長くなってしまう原因を理解し、それに対する具体的な対策を講じることです。 典型的な原因のひとつが、設計段階での共通化や分割の意識の欠如です。こうした設計意識がないまま実装を進めると、コードは際限なく肥大化し、読みにくく・保守しづらいものになってしまいます。
特に意識したいのが、単一責任の原則(SRP: Single Responsibility Principle)です。 関数やクラスが複数の責務を担うと、自然とコードは複雑で長くなってしまいます。逆に、それぞれが「1つのことだけを行う」ように設計すれば、自然とコードは、短く、シンプルになります。そしてコードの見通しがよくなり、重複コードが削除され、処理の共通化や再利用が進みます。
そして、何より大切なのがリファクタリングです。 実装が進むにつれて、どんなに丁寧に書いていたコードでも、徐々に複雑になっていくものです。これは避けられません。 そのため、定期的にリファクタリングの時間を確保し、構造を見直し、整理することが必要不可欠です。
はっきり言って、最初から完璧に整理されたコードを書ける人はほとんどいません。私自身も長年システム開発に携わっていますが、初回の実装で完璧なコードを書けた経験は一度もありません。 ごく一部のスーパープログラマーであれば可能かもしれませんが、それは例外中の例外です。
実際には、要件の変化や仕様の追加に応じて、コードを見直し続けることが求められます。 外的要因によってリファクタリングの時間が確保できないケースもあるでしょう(この点については別の記事で詳しく解説します)。 しかし少なくとも開発者個人としては、「最初から完璧なコードは書けない」という前提に立ち、意識的にリファクタリングに取り組む姿勢が重要です。
経験の壁
コードを意識的に整理することは、保守性や可読性を高めるうえで非常に重要です。 しかし、その実践にはどうしても「経験の壁」が存在します。 特に、複雑な業務ロジックを扱う場面では、その壁の高さが際立ちます。
シンプルな処理であれば、単一責任の原則(SRP)に従って自然に分割できるため、初学者と経験者の間で大きな差は出にくいでしょう。 しかし、業務特有の複雑な処理に直面すると、「どこで、どのように処理を分けるべきか」の判断は一気に難しくなります。
このような判断には、単なる文法や構文の知識では不十分であり、業務全体の流れやシステム構造の深い理解が不可欠です。 要件の背景や目的が見えていなければ、どうしても「要求通りに実装するだけ」というスタイルに陥りがちです。 その結果、再利用性の低いコードや、場当たり的な設計になってしまい、本質を捉えた構造的な実装が難しくなります。 (この点については別の記事で詳しく解説します)
特に経験が浅いうちは、目に見えている要件を順番に書き下していくだけの実装になりやすく、 業務ロジックの分岐や例外処理をそのまま積み重ねていくことで、コードは急速に複雑化・肥大化してしまいます。
こうしたスキルは、残念ながら書籍やマニュアルを読むだけでは習得できません。 実際の開発やリファクタリングを通じて、試行錯誤を繰り返す中で徐々に身につけていくものです。
ただし、これらのスキルは自然に身につくものではなく、意識的に取り組まなければ習得が難しいという点も重要です。 経験を積むだけでは不十分であり、常に次のような問いを持ち続けることが求められます。
「この構造は業務の方向性と一致しているか?」
「なぜこのような設計にすべきなのか?」
「どうすれば読みやすく、保守しやすいコードになるのか?」
日々の業務の中でこうした問いを意識し、業務理解を深めながら、 共通処理と変化点を見極める抽象化スキルや、 処理を構造的に整理する設計力を磨いていくこと。 それによって、経験が初めて実践的なスキルとして根付いていきます。
つまり、開発に多くの時間を費やしたからといって、 自動的にコードの複雑化や肥大化を防げるわけではありません。 経験値がそのまま成果につながるわけではなく、意識的に改善を積み重ねる姿勢が不可欠です。
実際、周囲を見渡せば、必ずしも「経験年数が長い=シンプルで質の高いコードを書く」とは限らないことに気づく方も多いでしょう。 経験の有無よりも、日々どれだけ改善を意識して取り組んでいるかが、スキルとしての差を生み出します。
意識的な取り組みに加え、ある程度の経験を重ねることで、設計や実装における判断基準が少しずつ見えてきます。 そして、その経験に裏打ちされた基準は、設計や実装における非常に重要な判断材料となります。
こうした判断基準を効率的に身につけるためには、 常に改善の姿勢を持ち続けている 経験豊富な開発者からのフィードバックやアドバイスを積極的に受けることが最も有効なのです。 (なお、チームや組織としてどうあるべきかについては、別の記事で詳しく取り上げます)
今回のまとめ
まず開発者自身が、「コードを長くしないこと」の重要性を正しく理解し、 そのうえで、本質を捉えた構造的かつシンプルな実装を常に意識することが重要です。
そのためには、リファクタリングの必要性を理解し、コードの可読性や保守性を高める姿勢が欠かせません。 長く複雑なコードを放置すれば、技術的負債が着実に蓄積され、 最終的にはシステム全体の品質や開発生産性に深刻な悪影響を及ぼすことになります。
このようなリスクを回避し、価値あるソフトウェアを実現するには、 「読み手を意識した設計思考」を持つことが不可欠です。 これは、開発者にとって習得すべき最も本質的なスキルの一つと言えるでしょう。
次回は、こうした改善が外的要因(組織的・プロジェクト的な制約)によって進めづらいケースについて取り上げます。