定数の外部化は本当に必要?ハードコーディング問題を再考する

ハードコーディングは避けるべきものとして語られることが多い一方で、「すべての値は外部化すべき」といった極端なルールが現場を支配し、かえって設計や運用に悪影響を及ぼしているケースも少なくありません。本記事では、定数の取り扱いをめぐる現場の実情やありがちな誤解を整理し、健全な設計判断を行うための視点を考察します。

ハードコーディングとは?

システム開発における「ハードコーディング(hard coding)」とは、本来は外部から取得すべき値をプログラム内に直接埋め込むことを指します。

ただし、実際の開発現場では「数値や文字列などの値をソースコード内に直接記述すること」として、より広義に使われていることも少なくありません。
このため、必ずしも「外部から取得すべき値」という前提が共有されておらず、実際には、意味の異なる2つの使い方が混在しているのが現状です。

ハードコーディングは問題か?

「ハードコーディング」が、重要な前提のある「外部から取得すべき値をプログラム内に直接埋め込むこと」を指す場合、それは明確な問題とされています。
なぜなら、環境や仕様、性能などに応じて変更が必要となる値をコードに固定してしまうと、柔軟性が著しく損なわれ、保守性や再利用性が低下してしまうからです。
また、パスワードやAPIキーなどの機密情報をソースコード内に埋め込む行為は、セキュリティ上の重大なリスクにもなります。
このような値は、パラメータや環境変数など、外部から適切に取得することが望ましく、プログラム内に直接記述するべきではありません。

一方で、「ハードコーディング」を単に「ソースコードに値を直接記述すること」と広義に捉えた場合、その行為自体が必ずしも問題になるわけではありません。
変更される可能性のない値であれば、ソースコードに直接記述して定数として扱っても問題はありません。 むしろ、そのほうが作業効率やコードの可読性の向上といったメリットを享受できる場合もあります。

この点を混同してしまうと、「ハードコーディングは避けるべき」という一般的な知識と、「ソースコードに値を書いてはいけない」という極端な解釈が結びつき、「すべての定数を外部ファイルに分離すべき」といった過剰な設計や不適切な判断に陥ることがあります。

実際には、「外部から取得すべき値」と「コード内で保持すべき値」が存在し、それらを適切に区別することが重要です。

外部化の判断の目安

では、「値を外部から取得すべきか」「プログラム内に保持すべきか」は、どのような基準で判断すればよいのでしょうか。
システムの特性や運用環境によって最適な設計は異なりますが、以下の観点をもとに検討することで、より現実的かつ柔軟な設計判断が可能になります。

値の変更頻度

値が運用中に頻繁に変更される可能性がある場合は、プログラム内に直接記述するのではなく、外部から取得する形にするのが適切です。
たとえば、料金体系、締め日、しきい値などの業務ロジックに関わる情報は、ビジネスの要件に応じて変更されることが多く、毎回ソースコードを修正・再デプロイするのは非効率で、保守性を大きく損ないます。

たとえば、毎月の売上を集計する処理を考えてみましょう。ここで「何月のデータを処理するか」という情報は、本来、パラメータとして渡す、データベースから取得する、またはプログラム内で動的に算出するのが望ましい設計です。
これを「1月」などとプログラム内に固定値として記述してしまうと、翌月以降も毎回コードの修正が必要となり、非常に手間がかかります。このような実装は避けるべきであることは、直感的にも理解できるでしょう。

一方で、変更の可能性が極めて低く、システム仕様として固定されているような値については、ソースコード内に明示的に記述した方が簡潔で読みやすく、かえって保守性が高くなる場合があります。

たとえば、今後変更される見込みのない定数や、特定のクラスやメソッド内でのみ使われる限定的な値などが該当します。こうした値まで外部ファイルやデータベースに切り出すと、実装が過剰に複雑になり、コード全体の見通しが悪くなってしまいます。
意味のない外部化は、かえって保守の手間や誤設定のリスクを増やす原因になり得ます。

環境依存性

値が開発・検証・本番といった環境によって異なる場合、それらは環境変数や設定ファイルで外部化するのが基本です。
たとえば、接続先のAPIエンドポイントやデータベースの接続情報などが典型です。これらをコードに直接書くと、環境切り替えが困難になり、誤った環境に接続するリスクも高まります。

再利用性

複数のモジュールやサービス間で同じ値を共有する必要がある場合、その値は共通設定として外部に切り出すのが望ましいです。
共通化することで、一貫性を保ちつつ、変更時の影響範囲もコントロールしやすくなります。

安全性

値をコード内に直接記述してもセキュリティー上問題ないかどうかの検討も必要です。
たとえば、認証情報や暗号鍵などの機密性の高い情報は、コード内に記述すべきものではありません。専用のシークレット管理サービスや安全なストレージを使用する必要があります。

値の変更頻度、環境依存性、再利用性、安全性といった観点から、「どの値を外部化すべきか」を適切に判断することは、柔軟で保守しやすいシステム設計につながります。
目的や利用状況に応じて最適な手法を選び、過不足のない設計を行うことが、健全なシステム運用の第一歩と言えるでしょう。

現場でありがちな、気をつけるべき注意点

ハードコーディングに関する議論は一面的ではなく、状況に応じた柔軟な判断が求められます。ところが実際の開発現場では、「ハードコーディング=悪」といった単純化された認識が広がってしまうことがあります。
その結果、「すべての定数は外部から取得すべきだ」という極端な方針を採るケースが見受けられます。

例えば、「変更の可能性がゼロではないから念のため外部化しておこう」といった意見や、「コード内に数値を直接書くと意味が分かりづらいから外部化すべき」といった声が挙がります。しかし、これらの判断には、「どのような値をどのように扱うべきか」という本質的な観点が抜け落ちている場合が少なくありません。

過剰な定数化の弊害

こうした方針が常態化した現場では、削除フラグ(0や1)といった変更されることがほとんどない値までも、外部ファイルやデータベースに定数として保持され、それをプログラム内で参照する実装が多く見られます。

さらにこのような考えが定着していくと、「汎用マスタ」と呼ばれるテーブルにすべての定数が登録され、アプリケーションがそのテーブルを通じて値を取得するという設計が標準化してしまうケースもあります。このような構成は一見すると、一元管理のメリットがあるように見えますが、実際には多くの問題を引き起こします。

意味のない「定数の外部化」が招く問題点

  • コードの可読性が下がり、意味の把握に時間がかかる
  • データベースアクセスの頻度が増加し、パフォーマンスが悪化する
  • テーブル構造が複雑化し、保守や変更が困難になる
  • テスト時に値を特定しづらく、迅速な検証ができなくなる
  • IDEでの補完・型チェックが効かなくなるケースがある

このように、本来はシンプルに記述できるコードが、意味のない外部依存によって不必要に複雑化し、結果として開発スピードの低下、コードの理解の困難化、バグの発生率の増加といった悪影響をもたらします。

単純化された「正しさ」に縛られる現場のつらさ

一部の現場では、「すべての値は外部化すべき」というルールが絶対のものとして扱われています。たとえ、プログラム内に直接記述しても何ら問題のない値であっても、それを行うと「なぜ定数にしなかったのか」と責められるような空気が存在します。

その結果、すべての定数が外部に追いやられ、値の定義箇所が分かりづらくなり、コード全体の見通しが著しく悪化します。開発者は、本来必要のない複雑な仕組みに付き合わされ、保守や修正に余計な時間と労力を割かざるを得なくなってしまいます。

もちろん、外部化には柔軟性や再利用性を高めるという明確なメリットがあります。しかし、「とにかく外部化すれば正しい」といった単純化された正しさが現場を支配してしまうと、個々の判断力や設計の工夫が否定され、開発者のやる気や成長意欲、さらには組織への信頼感までも損なわれかねません。

なぜこのような状況が生まれるのか

このような非効率な設計が現場で生まれてしまう背景には、いくつかの要因が考えられます。ひとつは、設計判断を担う立場の人が十分な開発経験を持っていない場合です。その結果、技術的な判断が「見た目の正しさ」や表面的なルールに依存しがちになります。

現場のリーダーが「単純化されたベストプラクティス」に基づいて機械的に判断してしまうと、かえって設計が歪み、パフォーマンスや保守性を犠牲にしてしまうことがあります。

また、「後から変更できるようにしておいてほしい」といった、システムに詳しくない関係者からの要望に対して、明確な方針や判断基準を持たないまま「とりあえず外部化しておく」と応じてしまうこともよくあります。こうした曖昧な要求に安易に従うことで、結果的にすべての値を外部化する設計が常態化してしまうのです。

システム開発において重要なのは、常に「なぜそうするのか」という背景や文脈を理解し、状況に応じて適切な判断を下すことです。定数化や外部化といったテクニックも、それ自体が目的化してしまうと、本来の設計意図や開発効率を見失ってしまうのです。

今回のまとめ

ソフトウェア開発では、「後で必要になるかもしれない」と考えて実装された機能が、結局まったく使われなかったというケースが非常に多く存在します。これは、開発の原則である YAGNI(You Aren’t Gonna Need It) ―「それはきっと必要にならない」― に通じる重要な教訓です。

定数の取り扱いにおいても同様で、「あとで変わるかもしれない」という想定のもと、すべての値を外部化しようとする設計は、結果的に不要な複雑さを招くことがあります。大切なのは、意味とスコープに応じて、定数を適切に分離・配置することです。

段階的な設計判断のすすめ

変更が必要かどうか分からない場合は、まずはソースコード内に直接記述し、実際に変更の必要が生じたときに外部化するというステップを踏むのが現実的です。

「変更に強い構造をあらかじめ用意しておくこと」と、「必要なものだけを外部化すること」は混同すべきではありません。重要なのは、実際に変更が発生したときに柔軟に対応できる構造を持っていることです。先回りして過剰な抽象化や外部化を行うよりも、必要になったときに素早く対応できるシンプルな設計の方が、結果として健全な開発につながります。

定数の外部化は「目的」ではなく「手段」

定数の外部化は、本来、可読性や保守性を高めるための手段に過ぎません。にもかかわらず、その目的を理解しないまま機械的に外部化を進めると、かえって保守性を損ない、コードの見通しが悪くなるといった本末転倒な結果を招くことになります。

その影響は、作業効率の悪化だけにとどまらず、品質の低下や改修コストの増加など、開発・運用のあらゆる面に波及します。最終的には、システム全体の信頼性や拡張性にまで悪影響を与えかねません。

定数の取り扱いは、単なる実装の細部ではなく、ソフトウェア全体の設計思想や品質に直結する重要なテーマです。可読性や保守性の向上という本来の目的を見失わず、常に「その外部化は本当に必要か?」と問いながら設計する姿勢が求められます。定数の管理ひとつで、コードの質が大きく左右されることを忘れてはなりません。

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